がんのこと、もっと良く知ろう⑲「味覚が感じにくくなった時は」

がんのこと、もっと良く知ろう⑲「味覚が感じにくくなった時は」

こんにちは。いい病院ネットです。

食べること、食べ物が美味しいと感じることは、生きる楽しみの一つです。また、口から食物をとることは、意欲を高め、免疫力をアップするにも役立ちます。ですが、がん治療である抗がん剤やホルモン療法、放射線治療の影響などによって、味覚が感じにくくなることがあります。

今回は、味覚が低下したときの対処法についてご説明します。

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「味覚が感じにくくなった時は」

■味にメリハリをつける

抗がん剤治療や放射線治療、ホルモン剤の影響などによって、味を感じる味蕾細胞が障害を受けたり、唾液腺がダメージを受けて唾液量が低下したりしてしまうことがあります。

そのため、今まで好きだった食材が、「おいしい」と感じなくなることもあります。患者さんも、ご家族も、その変化にショックを受けて慌ててしまいがちですが、味付けや食事形態を変更することで、食べられる方法は工夫の余地がたくさんあります。

味覚が感じにくくなっている場合には、どの味覚が感じて、どの味覚が鈍化しているのかを知ることも大切です。味噌汁はだめだけれど、お吸い物ならおいしく感じるという方もいますし、煮物は味がわかりにくくても、焼き物や和え物であれば美味しく感じる場合もあります。

今までの味を感じにくくなっただけで、すべてがダメではないのです。味だけでなく、温度の工夫によっても、味がわかりやすくなることもあります。また、逆に自然の味を好む方もいます。まずは、感じる味を探して、工夫することから始めて下さい。

また、下味をつけた後で、食べる直前に調味料などをご本人に追加してもらっても良いと思います。味覚の変化は、ご本人が一番わかる感覚です。塩分制限などがなければ、味覚が感じにくい時には、ある程度は“ご本人が感じやすく食べやすい味付けでも良し”と考えると、ご本人も食事を作るご家族も楽になるのではないかと思います。

■口腔内のケアはしっかりと

食事を食べなくなると、口腔内のケアも滞りがちになります。口腔内のねばねばや苦み、口臭によってさらに、味覚が低下する原因にもなります。

〇食事のあとは歯磨きを行う
〇舌ブラシなどを利用して舌へのマッサージを行い、味蕾を刺激する
〇こまめに水分を取るかうがいを行い、口腔内の潤いを保つ
〇食事前に、唾液腺のマッサージを行う
〇食事前に、口をゆすぐ、濡らした歯ブラシで舌を軽く洗う

など、味蕾や口腔粘膜が働きやすい環境を作ることも味覚が低下した時こそ、行って欲しいケアです。

ここでの注意は、舌を磨きすぎないことです。舌は白く見える毛の長い絨毯と、ピンクの短めの絨毯の2重構造です。「白い=汚れやカビ」と勘違いして、白い長い絨毯を無理にこすり取ろうとしてしまう方がいますが、逆に舌を傷つけてしまうことになりかねません。舌は、優しく、数回、マッサージをする程度でも効果があります。“優しく”をコンセプトに、対処してください。

■無理して食べるよりも、食べたい時に食べる

治療中は、「食べないと体力が落ちる」から無理をしても食べ「ねばならない」論に陥りがちです。また、「食べなければおしまい」というような不安な気持ちから、無理して食べ物を口にしようとします。

確かに、食べることはとても大切なことです。点滴だけでは、小腸粘膜にある免疫にかかわる細胞を活性化できにくいことも事実です。

ですが、不安や「べき論」からの食事は、治療や苦痛症状がプラスされた患者さんにとって、さらに苦痛を追加することもあります。

〇食べられる量を、複数回に分けて食べる
〇いつもとは違う場所で食べてみる
〇食べる服装や姿勢に注意する
〇料理をしている匂いや、生活臭に注意する
〇食べられる時間帯に食べる
〇栄養に良いからという視点でなく、食事を楽しむ視点を取り入れる
〇彩の良い食べ物を選ぶ
〇おやつや栄養補助食を上手に利用する
〇一回量に口に運ぶ量を少な目にする
〇金属の食器は、味が移ることがあるので避ける

などの工夫を行って、食事が苦痛にならないように配慮することでも、精神的に食欲が増して味覚が感じやすくなります。

味覚がなくなると、“ゴムをかみしめている感じ”になると表現する患者さんもいます。ゴムをかむのは、つらい感覚ですよね。であるとしたら、ツルッと飲み込める喉ごしの良い形に変えたり、あまりかまないで済む一口サイズにおかずを切り分けたりするのも良いと思います。

「この量を全部食べなければ」とか、「体に良いものをとるべき」という考えは少し脇に置いて、“食べられるものが見つかれば良し、食べられる時間帯が見つかれば良し”と考え、食べられたらそれを素直に喜びに変えることも、味覚が落ちた時の心の持ちようの一つです。

■脳が味覚を判断する

抗がん剤や放射線治療などの影響で味蕾細胞や口腔粘膜、唾液腺などが影響を受けて味を感じにくくさせること以外に、味は脳の働きが大きく影響します。

脳に病気がある場合にも味覚が変化することもありますし、抑うつ状態やうつ病が悪れている場合にも、味覚が低下することがあります。心と体のバランスが整って、初めて「おいしい」「味わえる」状態となるのです。

私の知っている患者さんの中でも、カウンセリングを通して味覚が戻ったと話す方もいますし、食べることの意味を変えることで食事がとれるようになり、徐々に味が元って来た方もいます。

病気の不安がある、将来の不安がある、食べられなくなったらと思うと不安でいられないなどがある場合には、気持ちを心の専門家に話すことも、味を感じるきっかけになることもあります

味覚は舌や口腔内だけの問題が引き起こすとは限らない。そのことも、味覚が落ちてきたときの知識として、心にとどめておいていただけたらと思います。

まとめ

今回は、味覚が感じにくくなった時の対処について説明させていただきました。一般の方は、「食べれば元気になる」と考え、無理に食べればよいと思いがちです。

ですが、無理に食べることが、逆に心理的な影響となり、無理に食べた食材を次に食べられなくなることや嫌な味覚として現れることもあります。

食べられる食材、味付け、時間、場所などを見つけて、食べられる量を味わってほしいと思います。栄養補助食も、今は様々な味付けやゼリータイプなどもあります。栄養を摂る方法は、広がっているのです。口腔内の環境も整えながら、食事を楽しい時間として欲しいと思います。

ライター:村松真実(がん看護専門看護師)

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