もっと知って欲しい!乳がんのこと⑦

もっと知って欲しい!乳がんのこと⑦

こんにちは。いい病院ネットです。

抗がん剤治療は、主ながん治療の中では、全身治療となります。そのため、手術や放射線治療と比較すると、様々な副作用が出現し、患者さんの生活の質を落とす場合もあります。今回は、抗がん剤治療の目的と、そのケアについて、ご説明していきます。

0811
『乳がんの抗がん剤治療とセルフケア』

■乳がんにおける抗がん剤治療の目的

乳がん患者さんに対する抗がん剤治療には、

〇術前抗がん剤治療
〇術後抗がん剤治療
〇転移・再発に対する抗がん剤治療

があります。

〇術前抗がん剤治療

主に、腫瘍を小さくして、切除範囲を小さくするとともに、画像などではとらえられない微細ながん細胞を死滅させるために行います。特に、乳房温存治療の場合で、トリプルネガティブタイプの患者さんにとっては、術前・術後の抗がん剤治療を行うことが、再発率を低下させるといわれています。

多くの場合、術前抗がん剤はあらかじめ回数が設定され、手術に臨むことになります。

〇術後抗がん剤治療

術後は、浸潤がんと診断された患者さんは、サブタイプ、リンパ節転移の数、年齢などのよって、転移・再発目的で抗がん剤治療が行われます。ホルモン受容体が陰性の患者さんはホルモン療法の適応がないため、現在の標準治療では手術の再発予防には、抗がん剤治療が適応になります。お薬の使い方も、作用が異なる複数の抗がん剤を使用して、より効率良く、効果的にがん細胞を攻撃し死滅させる方法をとります。

術前・術後の抗がん剤治療は、転移・再発予防であり、「乳がんの根治」を目的とした治療と言われています。

〇転移・再発に対する抗がん剤治療

骨や脳、肝臓などに転移した乳がんに対して行われる抗がん剤治療は、術前・術後の抗がん剤治療とは違い、がんの増殖を抑えると同時に、患者さんの生活の質を維持する目的で行われる治療になります。現時点でのがん医療は、転移をしたがん細胞を完全に死滅させることは難しく、がんといかに長く付き合っていくかが大切になります。

そのため、転移・再発に対する抗がん剤治療は、様々な薬剤を上手に使用して、できるだけ長くお薬を使い続けていくことになります。

■乳がんにおける抗がん剤の種類

乳がんのキードラックと呼ばれる抗がん剤は、

・トポイソメラーゼ阻害薬:アンスラサイクリン系
(アドリママイシン🄬・ファルモルビシン🄬)
・微小管阻害薬:タキサン系
(タキソテール🄬・タキソール🄬・アブラキサン🄬)
・アルキル化薬
(エンドキサン🄬)
になります。術前・術後の抗がん剤治療は、この薬剤を組み合わせて使用します。

転移・再発に対する抗がん剤は、上記のキードラッグの他に、ハラヴェン🄬、ナベルビン🄬、ゼローダ🄬、TS-1🄬、ジェムザール🄬など使用して、治療を行っていきます。

乳がんに使用できる抗がん剤は、年々増えており、また組み合わせも多様化しています。「これが効かなかったら」と、未来に対する不安を抱きがちですが、抗がん剤だけでなく分子標的薬も新しい治療薬が開発・使用開始となっています。

■抗がん剤治療時のケア

一般に言われている抗がん剤は、「殺細胞性抗がん剤」と呼ばれ、がん細胞だけでなく、すべての細胞に影響を及ぼします。特に、細胞分裂が盛んな組織、粘膜・骨髄・毛根に影響に影響が出やすく、そのため「消化器症状」「骨髄抑制」「脱毛」などが出現してくることになります。

〇吐き気や嘔吐

抗がん剤は、体にとっては初めて経験する物質。そのため、体の外に出そうと小腸粘膜にある腸クロム総和性細胞や、脳にある化学受容器引金帯(CTZ)が刺激され、嘔気や嘔吐が引き起こされることになります。

ですが、抗がん剤による嘔気や嘔吐に対するマネジメントは進歩しています。急性の吐き気も、治療後数日して出現してくる吐き気に対しても症状を緩和するお薬が出現しています。

ケアとしては、
・治療当日はおなか一杯の食事をとらない
・水分をしっかりとって、抗がん剤を早く排泄させる
・リラックスできる環境を作り、気持ちを楽にする
・体を締め付ける服装や、脱ぎしにくい服を避ける
・吐き気があるときは、少量ずつ食べたいものを食べる
・便秘傾向に注意する

などがあります。「病気に負けないように頑張って食べよう!」と思って無理をして気持ちが悪くなってしまうと、その記憶が次の抗がん剤治療時に思い出されてしまうこともあります。吐き気は必ず落ち着きますので、無理をせず、「水分は上手にとる」ことを心掛けると気持ち的に楽になると思います。

〇口内炎

抗がん剤が予定されたら、歯科や口腔外科の受診を行って、虫歯などの治療を行います。抗がん剤は、白血球を低下させるため、口腔内の自浄作用も低下させてしまうことがあります。口腔内の清潔を保つとともに、刺激の少ない歯ブラシや歯磨きを使用して、歯肉や口腔粘膜への刺激を避けるようにします。

また、舌へのブラッシングも大切ですが、舌は強くこすりすぎると舌を保護する丈の長い細胞を痛めてしまうため、舌ブラシか柔らかな歯ブラシで軽くブラッシングするだけで大丈夫です。また、味蕾が刺激され、味覚障害が改善しやすくなるともいわれています。

〇骨髄抑制

殺細胞性の抗がん剤では、白血球・血小板・赤血球低下などの骨髄抑制は、出現しやすい有害事象の一つです。骨髄抑制は、抗がん剤治療を行って約10~14日後に出現し、徐々に回復していきます。乳がんで使用する抗がん剤は、外来通院でも治療できる抗がん剤が多いので、白血球が低下しても入院が必要になることは少ないですが、白血球が低下する時期には、

・人ごみは避け、外出時はマスクをする
・寿司や刺身など生ものを避け、火の通った食品をとるようにする
・部屋を乾燥させすぎない
・睡眠不足を避ける
・毎日の入浴やシャワーを行い、皮膚や頭皮の清潔を保つ
・入浴後の冷えに注意する
・1日1回、同じ時間の体温測定を心掛ける
・排便後はウォシュレットを使用し、肛門周囲の清潔を保つ

ようの心がけ、こまめに手洗いとうがいをするようにします。

ですが、骨髄抑制が回復し、次の治療までの期間は、体調が安定している時期ともいえます。気の合う友達と会うことや、温泉などに出かけたりするなど、治療と治療の合間に生活の変化を取り入れることができます。

〇脱毛

乳がんに使用する抗がん剤の多くは、脱毛が見られます。脱毛は、治療後2~3週間で見られ始める有害事象です。そのため、治療が始まってからでもウィッグの準備などは間に合いますので、落ち着いて情報を集めることもできます。

ただ、脱毛は、頭皮だけではなく、まつげや眉毛をはじめとする体毛すべてが脱毛することになります。人によっては、毛髪よりも、まつげが抜けたことがショックだったと話す方もいます。今はとてもフィット感が高いウィッグが販売され、手に入りやすいのですが、まつげや眉毛のケアができず、人に会うことに抵抗感を抱くようです。

ですが、今はお肌に優しいアイライナーやつけまつげ、まつ毛・眉毛用美容液なども販売されています。一人で悩まず、ウィッグなどの相談の際に、気軽に声をかけてください。いろいろな情報を得ることができるはずです。

がん患者サービスステーション
スベンソン:頭皮ケア・外見ケアお手入れ相談
アデランス:医療法ウィッグ
ブレケアガーデン:メイク&エステ
資生堂:ライフクオリティービューティーセンター

〇その他の有害事象

使用するお薬によって出現する有害事象もあります。例えば、タキソテールなどのタキサン系の薬剤を使用場合には、手足のしびれなどの抹消神経障害が出現してきます。

また、タキサン系のお薬は、投与後1週間程度、筋肉痛のような症状が出現することがあります。ドセタキセルなどは体に浮腫みが現れることもあります。

有害事象の強さや、個人差がありますし、不安などの精神的なものでも強く感じることもあります。気になる症状が出現した場合には、化学療法室や外来の看護師や薬剤師、主治医に相談してください。主治医よりも、看護師や薬剤師のほうがケア方法については情報を持っていますし、聞きやすいと思います。まずは、相談してほしいと思います。

皮膚や手足症候群、爪ケアについては、次回ご説明する予定です。よろしくお願いします。

ライター:村松まみ(がん看護専門看護師)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>