がんのこと、もっと良く知ろう⑦ 「治療に迷う時は」

がんのこと、もっと良く知ろう⑦ 「治療に迷う時は」

こんにちは。いい病院ネットです。

がんに治療はたくさんあって、色々提示されてもよく判らない、そんな相談を受けることがあります。今のがん治療は、ただ「見えるがんを切る」という簡単なものではなく、がん細胞のタイプ・ステージなどによって治療選択が組み合わされて行きます。今回は、「治療選択」についてご説明します。

「治療に迷う時は」
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■効果的な治療が多くなって迷う

私ががん治療に関わりはじめた時、がん治療は「手術」が第一選択で、血液腫瘍以外では、抗がん剤や放射線治療は“手術ができない人”の治療という意味合いが強かったのを覚えています。特に、私は消化器内科に所属していたため、手術で取り切れずに転科してきた患者さんが「俺は外科の患者だから」と口にする言葉の裏側にある気持ちを、切なく感じたものでした。

その後、人の遺伝子解析が進み、抗がん剤や放射線治療の種類も精度も良くなり、手術で「見えるがんをとる」だけの治療ではなく、大規模な臨床試験データに基づいた標準治療が明らかになりました。その結果、がんの種類・細胞のタイプ・ステージなどによっては手術だけが第一選択ではなくなりました。

例えば、早期の大腸がん・胃がんであれば、内視鏡でがんを切除する方法が第一選択となっていますし、前立腺がんなども、がん細胞のタイプとステージによっては、手術・放射線治療・ホルモン療法の5年生存率が変わらないこともわかってきました。

医師は、患者さんにいくつかの治療の選択肢を説明します。しかし、一般的な常識は、「手術が一番良い治療のはず」というイメージが強かったり、逆に手術が適切な方法なのに「同じ病気の知り合いは、違う治療を受けた」「テレビで紹介された治療が受けたい」と他の治療を選択しようとしてしまったり、適切な治療が選べなくなることになります。

がん治療を決める時は、「がんの種類」「ご自身の年齢」「細胞のタイプ」「ステージ」を総合的に考えて判断します。「知り合い」や「身内」の体験は、その後の闘病を支える心得としてはとても役立ちますが、治療選択の時に迷ったときは「セカンドオピニオン」を1か所は受けることをお勧めします。

■今は集学治療が主流

医療が進み、以前では手術をすることで外見や機能的に後遺症が残った手術でも、今は患者さんの生活の質と、機能温存を大切に考え、「小さくしてから切除する」「必要最低限の範囲を切除して、再発予防のための治療を追加する」ことが主流になっています。

がんの治療を考える時、手術だけでなく、放射線治療や抗がん剤などの様々な治療を組み合わせて、より効果的に治療を行うことこと、つまり「集学的治療」を行うことが、現在のがん治療の主流となっています。

例えば、乳がんの場合には、腫瘍の大きさや細胞のタイプに応じて、手術前の抗がん剤を使用する場合がありますし、乳房を温存した場合には再発予防として放射線治療を受けることが標準治療ですし、ホルモン治療に効果がある方はホルモン剤を使用することもあります。

体質が人によって違うように、その体質を生み出す細胞から生まれたがん細胞は、一人ひとりの個性をもった細胞とも言えます。だからこそ、同じがんであっても治療効果が変わり、抗がん剤や放射線が効きやすかったり効きにくかったりします。だからこそ、オーダーメイド治療が、がん治療では求められるのですが、まだまだ解明されていないことも多いため、歯がゆい気持ちが残ってしまうのです。

しかし、この集学的治療によって、大腸がんのステージ4の方であっても、治る可能性が出てきています。ステージ4とは、原発のがんの大きさにかかわらず、肝臓や肺、骨などにがん細胞が転移した状態を指し、基本的には全身に散ったがん細胞を取り除けないため手術は適応になりません。ですが、大腸がんで肝臓に転移があっても、抗がん剤と手術を上手に組み合わせることで、がんをコントロールできる方が増えているのです。

たくさんの治療を組み合わせていくことは、心身の負担も大きいですが、治る可能性が生まれてくるのも、集学的治療だからこそできるのだと思います。

■自分のこれからを考えておこう

高齢になればなるほど、誰もが細胞が老化し、がん細胞が生まれやすくなります。がんにかかった時に、色々と考えることは時間も限られ、冷静に判断することは難しくなります。

そのため、できれば健康な時に、「自分だったら」「家族だったら」と、がんになった時のことを考えて話し合って頂けたらと思います。

今は入院日数も少なく、外来通院治療が主流です。放射線治療や抗がん剤も外来で行う時代です。だからと言って、治療は数年にわたることもありますし、仕事や家庭との両立など、それまでと同じ生活を続けることは難しい場合が多いと思います。

自分だったら、どこまでの治療を望むのか、がんになった年齢を踏まえた時どうしたいのかを考えてみてはいかがでしょうか。“がん治療をやり切りたい”と考えるのなら、医療保険やがん保険の備えなども大切ですし、その気持ちを家族と共有することで、がん治療に迷った時に家族がアドバイスをしやすくなると思います。

まとめ

がん治療は集学的治療であり、今や遺伝子治療も視野に入ってきています。がんの治療選択に迷った時、今までの体験や周囲の人からの情報を得るのではなく、“自分のがんの標準治療は何か”を知ることをまずは優先して下さい。その上で治療をするかどうかは、ご自身のこれからの人生を十分に考えた選択してほしいと思います。

ライター:村松まみ(がん看護専門看護師)

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