こんにちは。いい病院ネットです。
ひと昔前のがん治療の主役は、手術による根治的治療でした。特に、日本人の外科医の腕は抜群だといわれ、手術でがんを取りきることが一番良いと思ってしまう方も多いと思います。もちろん、今でも一度で切除できて、傷もそし術後の後遺症も少ないのであれば手術が第一選択の場合は多いと思います。ですが、最近のがん治療では、集学的治療による効果も高くなっているのです。今回は「集学的治療」についてご説明します。
「集学的治療って何?」
■集学的治療とは、治療を組み合わせて相乗効果を狙います
がん治療の基本は、手術・抗がん剤をはじめとする薬物療法・放射線治療の3つがあげられます。その主力となる治療を、がんの種類や病期に応じて組み合わせ、より手術による後遺症を少なくするとともに、治療効果も上げるために行うことを集学的治療と呼んでいます。
例えば、乳がんであれば、乳房全摘を行うことのほうが再発リスクは減少します。ですが、女性にとって、乳房を失うことはそれからの人生を生きる中で切ない思いを抱くことにもなります。
そのため、乳房全摘術と同じ5年生存率を得るために、乳房を部分切除にとどめ、がんを取り除いた乳房に放射線治療をかける方法が確立しました。乳房部分切除術と放射線治療を合わせた治療法のことを集学的治療と呼びます。乳がんの場合には、さらに手術の前にがんを小さくするために抗がん剤を使用する場合もありますし、ホルモン依存性のがんの場合には、ホルモン療法を継続することもあります。
このように、さまざまな治療を適切な時期に、組み合わせ、患者さんの切除部位を小さくするとともにがんの再発を抑える治療が、最近のがん医療の主流になっています。
■切除部位が小さいことは、QOLを上げることにもつながる
もちろん体に傷をつけることも、臓器を失うことも、望む方がいません。ですが、その中でも、腎臓や前立腺、胃や大腸など、その後の後遺症はありますが、外見上に大きな障害が見えない場合には、手術を受けることでがんが完全になくなるのなら第一選択する方は多くおられると思います。
ですが、顔や耳、喉などの領域の頭頸部がんの方や、子宮がんによる両方の卵巣・卵管・子宮とその周辺のリンパ節などを切除しなければならない場合、人工肛門になる可能性がある場合など、手術でがんを取り切ったとしても、QOL(生活の質)は大きく低下してしまうといわれています。
そのため、放射線治療や抗がん剤に対する感受性が高いがんの場合には、手術で根こそぎ切除することにこだわらず、患者さんの機能を維持することを優先するための集学的治療が行われます。場合によっては、放射線治療と抗がん剤治療を同時に行い、相乗効果を狙うとともに、放射線治療の線量と抗がん剤治療の投与量を下げることも行われています。もちろん、二つの治療を組み合させることで、副作用が強く出現する場合もありますが、切除してしまえばなくなってしまう臓器や組織が残ることで、副作用が軽減すれば、また今までの生活に戻ることができる可能性が高くなります。
■集学的治療が発達した背景は
集学的治療が発達した背景には、大規模臨床試験と各がんのガイドラインの整備が大きく影響しているといわれています。また、新しい抗がん剤の種類が増え、がん遺伝子の解析が進み、そして放射線治療機の精度が上がったことも大きな要因になります。
手術法を比較して、生存率を比較しデータとして結果が得られたことも、拡大手術から縮小手術へと流れが変わった背景にあるともいわれています。大きく切除すれは、がんは治ると思われていた以前の治療が、逆の結果となった術式もあり、また、手術は医師の技術によっても左右されるため、より確実で、より安定した治療効果を得るために、集学的治療が盛んになってきたのです。
また、早期発見・早期治療に力を入れたことで、完治する患者さんも増えました。できるだけ小さく、できるだけ外見に変化が少ない治療を望む患者さんの声も、集学的治療の後押しになったのではないかと思います。
■治療を受けた内容を覚えておいてください!
集学的治療が盛んになってきたのは、ここ10年程度のことです。そのため、これからどのようなことが体に影響を与えたかが出現してくることになります。もちろん、どの治療も後遺症を最小限に考え、組み合わされていますが、放射線は臓器によって線量が決まっていますし、抗がん剤も同じように使用できる量が決まっています。
長い人生を生きる中で、がんを何度か経験する方もおられます。また、放射線治療や抗がん剤の影響で、二次がんが発生する可能性もゼロではありません。QOLを考慮し、効果的な治療法として集学的治療は選択されますが、その治療内容は、受けた方もしっかりと記憶しておくことがこれからさらに求められてくると思います。
特に、なぜか患者さんは、放射線治療は抗がん剤治療よりも記憶に残りにくく、忘れてしまっている方もおられます。ですが、どの部位にどの程度照射したのかは、とても大切な情報になります。今、集学的治療を受けている方は、ご自身の体の記録として、きちんと書類などで保管しておいてほしいと思います。
まとめ
手術・放射線治療・抗がん剤をはじめとする薬物療法を効果的に組み合わせた集学的治療は、ますますがん治療で行われることが多くなると思います。がん細胞を効果的に抑えこみ、切除部位はできるだけ小さくし、患者さんの生活の質の維持と再発予防も狙える集学的治療の効果。ですが、同時に体に与えるダメージは、将来にならないと見えてこない場合もあります。がんが治ったとしても、その時受けた抗がん剤や放射線治療の証拠となる文書などは、保存しておくことをお勧めします。