こんにちは。いい病院ネットです。
一般的な抗がん剤と違い、分子標的薬は副作用が少ないといわれ、分子標的薬はケア体制を確立しないまま患者さんに使用を始めました経緯がありました。しかし、実際は、思いもよらない副作用が出現し、ケア方法が出来上がるまで混乱したことを覚えています。殺細胞性抗がん剤と違う副作用がある分子標的薬。お薬と上手に付き合うことは、患者さんのセルフケアも大切な要素になります。今回は、分子標的薬の副作用とセルフケアについてご説明します。
「分子標的薬と上手につきあう」
■皮膚障害・爪障害はセルフケアが大切
分子標的薬は、一般的な抗がん剤と違い、がん細胞表面などにある抗体に結び付き、抗腫瘍作用を発揮するお薬です。そのため、抗腫瘍効果が高く、患者さんの生存率や無増悪生存期間などに寄与することが分かっています。しかし、その標的となる分子が腫瘍細胞だけに限らず、正常細胞にも存在するため、治療効果があると有害事象も強くなる傾向があるといわれ、治療効果が必ずしもQOLにつながらないことがあります。
その一つが皮膚障害です。分子標的薬の種類によって、皮膚障害の出現方法は変わることもわかっており、治療が開始されると同時に、予防的に軟膏などが処方されるように配慮されています。
ですが、HFSと呼ばれる手足症候群は、治療開始が遅れることで歩くこともできないほど痛みが出現することもあります。そのため、治療前からのケアがとても大切になります。特に、“ペンだこ”や、靴が当たる部分はHFSが出現する分子標的薬の服用を開始すると、かなりの頻度で、発赤と痛みを伴うHFSが出現することが分かっています。あまりに肥厚した皮膚がある場合には、皮膚科的処置が必要になることもあります。
○かかとや皮膚の硬いところはないか
○仕事など強くものを持ったり絞ったりすることがないか、足を踏ん張ることはないか
○硬い靴や、足が当たる靴を履いていないか
などをチェックして、できる限り刺激を避け、手洗い後・入浴後・睡眠時には、手足に軟膏やローションを塗布し、保湿する毎日のケアが大切になります。
この説明をしすぎると、「家事も、仕事も、何もできない」と家族に負担をかけることを心配する患者さんもおられます。ですが、綿手袋を2重にしたり、足に負担をかけた後はきちんと除圧(足にかかった負担を軽減する)ことを心がけることで、溶接の仕事を継続できた患者さんもいました。あきらめないで対処法を考えることも大切です。
分子標的薬は、継続して服用するお薬ですし、皮膚障害の出現は、治療開始後の初期に出現しやすい有害事象でもあります。悪化する前に、きちんとケアする、毎日の習慣にすることで乗り越えることができる有害事象でもあります。
■意外に多い、爪の障害
爪が割れる、爪の周りが赤くなる、爪の色素沈着が起きるなども、分子標的薬にみられる有害事象の一つです。ですが、爪の障害は、命にかかわる有害事象でないため、医師も家族も、患者さん自身も後回しにしがちなケアになりがちです。
ですが、爪は、爪の下の皮膚を保護しているだけでなく、何かをつかむ時などの時に、指先に力を入れやすくするなどの役目も果たしています。そして、一旦、爪の障害がおこると、回復するまでに時間がかかるため、毎日の生活の質を落とすことにもつながります。
また、爪は、意外と人前に見せる機会が多いものです。男性・女性問わず、爪の障害が出現した後は、爪を気にして無意識に隠したり、必要以上に爪に触ったりしている方もお見掛けします。有害事象なく、治療継続できるわけではないのですが、ケアすることで、できる限り有害事象を抑えることを心がけて頂きたいと思います。
セルフケアの一例としては、
○手洗いの際には、爪の間も意識して、丁寧に洗う(細菌の繁殖を防ぐ)
○保湿クリームは爪まで塗る(爪専用の保湿クリームもあります)
○深爪はしない(指先よりも爪が2㎜程度長くなるようにカット)
○爪切りの使用は避け、爪やすりでマまるく削る
○トップコート、マニキュア、水絆創膏などで爪の補強を行う
○手袋、靴下の着用を心かける
などを毎日の生活の中で行うようにしまう。セルフケアを行っても、お薬によっては、爪周囲炎などが起こることもあります。その際には、診察日を待たずに医師や看護師、薬剤師に相談するようにしてください。早めの対処が、悪化を防ぎ、お薬の中断や減量を防ぐことにもつながります。
■間質性肺炎
分子標的薬で、最も気を付けたい有害事象は間質性肺炎と言われています。この有害事象は、命にかかわることもありますので、施設によっては、患者さんに経皮的酸素飽和度を測定するサチュレーションモニターを購入してもらい、自宅でセルフチェックしてもらっていることもあります。
分子標的薬は、点滴・内服を含め、外来通院での治療になります。そのため、患者さん自身が、「なんか歩くと、息が切れる」「空咳が出る」「背中などに変な重苦しさがある」といった違和感を覚えた時に、病院に連絡をくれるかどうかが、早期発見のカギになります。
○こまめなうがいと手洗いの励行
○疲労や寝不足をさけ、免疫力を維持する
○お部屋の加湿(寝室も含め)
○人ゴミや風が強い日などのマスクの着用(咽頭の保護と適度な加湿)
○可能ならサチュレーションモニターによるセルフチェック
○腹式呼吸などの呼吸法をとりいれる
などを行って、日々の生活でのセルフケアを行って頂けたらと思います。
■高血圧
分子標的薬の副作用の一つに、高血圧が出現することがあります。これは、有害事象であるとともに、治療効果がある場合に血圧が高くなる傾向があることもわかっているため、降圧剤の服用によって対処することになります。
「血圧まで高くなってしまった」と悲観する患者さんもおられますが、治療効果の一つとして考えるようにすると、この症状のとらえ方も変わるのではないかと思います。
ですが、血圧が高いことは、心臓・腎臓・血管系に負担をかけることにはなりますので、分子標的薬治療が開始される前から、毎朝の安静時などの血圧を測定する習慣をつけて、お薬を服用した記録と、血圧の数値がわかるようにノートにつけることをお勧めします。
休薬期間が必要な分子標的薬の場合には、休薬中に降圧剤を継続することで、血圧が下がりすぎてしまう場合もあります。その場合には、その時期だけ降圧剤も休薬することもあり得ます。
分子標的薬は、服薬の周期と、有害事象とに、患者さん自身が上手に付き合うことが大切な、オーダーメイド治療の部分も多いお薬です。そこが、一般的な抗がん剤の副作用と違う部分でもあります。だからこそ、服用を開始した後の体の変化を、上手に医師や看護師・薬剤師に伝えることが大切なのです。
まとめ
いかがでしたか?分子標的薬が出始めた頃は、患者さんと一緒にセルフケア支援を行って、そのことが、分子標的薬の有害事象を軽減できることも実感しました。有害事象が強いほど、治療効果があるともいわれる分子標的薬。だからこそ、セルフケアをして、生活上の苦悩を少なくしながら、治療継続できると良いですよね。