こんにちは。いい病院ネットです。
日本では、乳がんの外科手術では乳房温存術が、術式の約6割を占めるといわれています。その温存療法と併用して行われるのが、外照射による放射線治療です。放射線治療については、日本人は原爆などの影響で受け入れることに抵抗がある方もまだまだ多いのが現状です。
今回は、乳がんと放射線治療、そしてセルフケアについてご説明します。
『乳がんの放射線治療とセルフケア』
■再発予防の位置づけの放射線治療
〇乳房温存術後の標準治療
乳がん温存手術は、腫瘍とその周囲の組織を切除し、乳房を残す手術になります。そのため、乳房切除術よりも再発リスクが高くなることは大規模臨床研究から明らかになっています。
では、その5年後の同側乳がんの再発リスクを、乳房切除術を同じレベルにするためには何が必要なのかを研究した結果、科学的根拠が得られた方法が、温存乳房に対する放射線外照射による治療でした。
つまり、乳房温存療法を行った場合には、温存乳房全体に約5週間の外照射を行うことが『標準治療』、現段階では、最良の治療の位置づけになります。この治療を行うことによって、乳房内の再発を、約1/3に減らせることが研究で明らかになっています。
その一方で、患者さんが再発予防として放射線治療を受けたからと言って、100%再発しないわけではありませんし、術後20年後の経過はどうなるのかまでははっきりとしたデータが集まっているわけでもありません。そこが、がん治療の難しい部分で、遺伝子という個人差の壁が立ちはだかっている面が強く、治療選択に迷う部分ですよね。
ですが、迷った時は、乳房温存療法を行った場合には放射線治療を選択することをお勧めします。治療をしなかったことで、再発した時に自分を責める場合があるからです。「放射線だから嫌」と感情で拒否する前に、医師と話し合い、納得したうえで、受けられる治療は受けてほしいと思います。
〇治療は5週間~6週間、週5回連続で
乳房温存術後の放射線治療は、一回1.8~2Grayの放射線量で、25回から30回治療を行います。治療回数に幅があるのは切除した乳房の断端にがん細胞を認めた場合や、わきの下などのリンパ節に転移があった場合に追加して照射を行うためです。
特に、切除した乳房の断端にがん細胞を認めた場合や、その可能性が高い場合、50歳以下の若い患者さんには、がんがあった部分に対し集中的に放射線治療を行います。この場合、多くの場合は電子線と呼ばれる皮膚表面に効果がある放射線治療を行うことが多いのですが、乳房の大きさなどによっても変わってくるようです。
放射線治療計画ガイドライン2012
がん情報サービス・乳がん・放射線治療
がん百科・これから乳がんの治療を受ける方へ・放射線療法
■再発・転移時の放射線治療
乳がんが再発した場合にも、放射線治療は治療選択の1つになります。
・皮膚やリンパ節、胸壁に転移をした
・脳転移を起こした
・骨転移による骨折や麻痺予防
・骨転移やリンパ節転移による痛みの緩和
・腫瘍からの出血
などに対しても、放射線治療が行われることがあります。放射線治療は、手術と同じ局所治療ですが、有害事象よりも効果が得られる場合には、適応範囲が広いため、緩和的介入としての治療としても行われています。
乳がんは、脳転移や骨転移を起こしやすいため、再発した際の症状コントロールとして放射線治療はとても有効といわれています。実際に、私も放射線治療室で再発・転移をした乳がん患者さんへの放射線治療の看護に携わっていましたが、骨折リスクが減り、痛みが楽にことで、どれほど患者さんの生活の質が上がるかを目の当たりにしてきました。
もし、再発した際に、放射線治療を提示された時には、主治医だけの説明に終わらずに、放射線治療医の説明も聞いたうえで治療選択を行ってほしいと思います。症例数を経験している専門医から説明を受けないまま治療選択をすることは、もったいないことかもしれません。
■残存乳房への放射線治療時のセルフケア
乳房温存術後の放射線治療は、一回1.8~2Grayの放射線量で、25回から30回の治療となります。この場合の放射線治療は、放射線を斜めから当てて肺や食道・心臓などの重要な臓器に放射線が当たらないように工夫されているため、吐き気などの消化管症状はほとんど出現しないまま治療を終える方がほとんどです。治療後半になると、倦怠感を訴える方もおられますが、多くの方は仕事をしながら治療が可能です。
〇放射線間質性肺炎
〇放射性皮膚炎
〇皮膚の色素沈着
などがあります。
〇放射線間質性肺炎
放射線間質性肺炎は、患者さん自身が予防できるものではありませんが、早期発見・早期治療がとても大切な症状です。空咳が続く、微熱が出た、動くと息が切れるなどの症状が出現した時には、放射線治療室のスタッフや医師、主治医に相談して胸部XP撮影を行ってください。治療後半年ほど経過すると、発症リスクも下がるといわれています。
〇放射性皮膚炎
乳がんの放射線治療では、必ず皮膚炎は程度の差こそあれ、発症します。そのため、この症状を予防することは難しいのですが、症状の出現を遅くする、症状を最小限にする一番の要因がセルフケアになります。
放射線治療は、皮膚にマーキングを行っているため、「お湯で流すだけにして」と指導されることもあるかと思います。ですが、洗浄料を使用したからと言って、皮膚障害が悪化するわけではなく、スキンケアを行うことは、科学的根拠に基づく推奨レベルでも1)ブレードBであり、「行うことを勧める」結果になっています。
では、そのスキンケアの方法としては
〇人肌程度のお湯を使用する
〇泡洗浄でこすらず優しく皮膚を洗う
〇すすぎは十分に行うが、勢いの強いシャワーは避ける
〇皮膚の水分をふき取るときは、柔らかいタオルで抑え拭き
〇入浴後は保湿を心掛けるが、皮膚をこすらずマーキングにも注意を
〇処方された保湿剤は、塗布するタイミング・量を守る
などになります。特に、治療3週目以降に皮膚炎が強くなります。皮膚がすれると、さらに炎症がひどくなりますし、清潔保持も大切になります。症状が出現してからスキンケアを行うのではなく、症状がない時から、意識して皮膚を保護することが、結果的に皮膚炎を軽くすることにつながります。
また、治療中は、ウォーキングやジョギングなど、腋がこすれる運動は避け、脱ぎやすく肌触りの良い下着をつけることも大切です。「自分の皮膚や自分が守る」という意識で、こすらず、刺激を与えず、保湿をして新しい皮膚が再生してくるまでケアを続けてください。もちろん、日焼けも避けて下さいね。
治療が終了しても、皮膚が再生してくるまでは1か月程度かかります。保湿剤はそのまま継続して使用します。ですが、炎症がひどくてステロイド剤を処方されていた場合には、炎症が落ち着き痛みや腫れがなくなったら継続して使用することは避けるようにします。
自分で判断がつかないときは、看護師や医師に皮膚の状態を見てもらって、ステロイド剤が必要かどうか判断してもらうのもよいと思います。
色素沈着は、患者さんの肌質にかなり影響しますが、徐々に改善していきます。しかし、直射日光は避けることが大切で、UVケアは忘れずに行ってください。
まとめ
乳房温存術後の放射線治療は、標準治療になります。また、再発・転移した場合にも、放射線治療が適応になる場合が多くあります。「放射線は怖い」というイメージを、日本人は強く持っている方も多いのですが、今は放射線治療の技術も向上しています。
主治医から放射線治療を提示された時、すぐに断わる前に、放射線治療医の診察や、看護師の説明を聞いてから判断しても遅くないと思います。副作用対策も、しっかりしていますよ!
参考文献
1)がん患者の外見支援に関するガイドラインの構築に向けた研究班編:がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016版.金原出版株式会社.