こんにちは。いい病院ネットです。
乳がん治療の特徴に、ホルモン療法があります。乳がん細胞の多くは、エストロゲンと呼ばれる女性ホルモンによって増える場合があります。そのため、乳がんは、ホルモン依存性腫瘍とも呼ばれています。
今回は、乳がんとホルモン治療、そしてホルモン療法時のケアについて、ご説明します。
■ホルモン治療とは
〇ホルモン治療が対象になる方は
乳がん患者さんの約70%~80%程度の方が、女性ホルモンを栄養として取り込むがん細胞の性質を持っているといわれています。がん細胞にその性質があるかどうかは、乳がんの確定診断で行う針生検や手術などで採取した乳がん細胞の遺伝子を調べ、診断しています。
・エストロゲン受容体
・プロゲステロン受容体
この両方、またはどちらか一方が「陽性」と判定された場合には、ホルモン療法の対象になります。
〇ホルモン療法は、5年から10年継続する
以前は、ホルモン療法は5年継続すれば卒業というイメージでした。ですが、乳がん患者さんの10年生存率が発表されましたが、乳がんは5年経過しても再発する患者さんが少なからず存在することがわかり、今は患者さんの年齢やがんの性質などを考慮して、10年服用するほうががんの再発リスクを下げることが分かってきています。
ですが、乳がんにかかる方は、若く妊娠可能な世代の方もいます。10年間、ホルモン療法を継続すると、タイミングを逃してしまうこともあると思います。
再発予防でホルモン療法を服用し、妊娠を望んでいる場合には、医師と相談しながら治療期間や使用する薬剤について相談することが大切です。「将来、子供がほしい」という気持ちを、はっきりと伝えてくださいね。
〇閉経前と閉経後ではホルモン療法の仕組みが違う
閉経前は、エストロゲンは脳にある下垂体の指令を受けた卵巣から作られます。そのため、閉経前は、脳からの指令を止めるお薬(注射)と卵巣でのホルモン生成をブロックするお薬(内服薬)の2種類が必要になります。
閉経後は、卵巣機能が低下するため、下垂体-卵巣でのエストロゲン生成ルートはなくなります。その代わりに、エストロゲンは副腎皮質から分泌されるアンドロゲンと呼ばれる男性ホルモンから、脂肪組織に含まれるアルマターゼと呼ばれる酵素の力を借りて作られることになります。そのため、閉経後のホルモン療法は、アロマターゼ阻害薬を中心としたお薬を服用することになります。
ホルモン療法も、お薬の種類が様々あり、患者さんがどのお薬が適しているかは腫瘍マーカーや画像診断などによって経過を見ていきます。最初のお薬が合わないと、「ホルモン療法は嫌だ!」という拒否感を強く持ってしまう患者さんもいますが、ホルモン療法も作用機序によって副作用の出方も違ってきますので、「内分泌療法は私に合わない」と、治療の大切なカードを受け取り拒否にせずにいてほしいと思います。
■ホルモン療法の副作用とケア
〇ホットフラッシュ、更年期障害
ホルモン療法は、エストロゲンを減少させるため、急なホルモンバランスの変化が起こります。特に、閉経前の方は、急激にエストロゲン量が減少するため、更年期障害が出現しやすくなります。ですが、これも個人差があり、必ず出現するわけではなく、ホルモン療法を開始した半数の患者さんに大なり小なりの症状がでるといわれています。
症状としては、急なほてりやのぼせ、発汗、顔や胸が赤くなる、動機や頻脈、めまい、手足の冷え、肩こり、肥満、不安やイライラ、睡眠障害などがあります。
症状に対しては、着替えのしやすい服装を取り入れる、急な温度変化を避ける、ヨガや自律訓練法を取り入れる、手足の冷えが強い場合には足浴やウォーキングなどを取り入れるなどを取り入れるようにするとよいと思います。発汗が気になる場合には、デオドラントシートやスプレーを外出先でも使えるように準備しておくだけで、精神的に落ち着くようです。
ホットフラッシュは、ホルモン量が安定してくるとともに症状が落ち着いてくる場合も多いです。ですが、一般的な更年期障害の症状も、かなり個人差が大きな症状のため、生活に支障がある場合には、医師と相談し、お薬の変更や、更年期障害の症状を緩和するお薬を処方してもらうこともできると思います。
〇気持ちの落ち込み
気持ちが不安定となり、落ち込みが強いときは、担当医と相談するとともに、患者会などへの参加もおすすめします。同じ病気の方の話を聞くことで孤独感が小さくなりますし、対処法についても様々な方法を知ることができます。また、カウンセリングを受けることも、おすすめです。辛さを吐き出すだけでも、今感じている症状や変わることもあります。
「今までの自分と違ってしまった」「誰にも会いたくない」という声も、ホルモン療法中の患者さんから聞くことがあります。それは、ホルモンバランスの変化と、その症状や未来についての不安が重なって起きていることもあります。
自分が感じている症状が、何が原因で起きているのかを、客観的に整理することで、対処法も変わることもあります。主治医とは相談できなくても、がん哲学外来や患者会などを通して情報を得ることもできます。一人で悩む前に、相談してほしいと思います。
〇血栓症
ホルモン剤の種類によっては、血液が固まりやすくなることがあります。そのため、下肢に静脈瘤のある方や、脳梗塞の既往がある方は必ず、ホルモン療法を始める前に医師に伝えてください。
また、ホルモン剤を開始した後は、ホルモンバランスが乱れ、肥満傾向になる場合もあります。肥満は、下肢の血流を悪くさせてしまいます。できるだけ標準体重を維持するように毎日の食事や運動を心がけてほしいと思います。
椅子に座って長時間足を下げたままにする姿勢や、正座をすることは避けるようにします。1~2時間に10分程度は立ち上がって体を伸ばして足を動かす運動を取り入れる、足の指を動かす、ふくらはぎのマッサージを行うことも良いと思います。加圧したストッキングを使用することも効果があります。
〇骨粗しょう症
エストロゲンは、骨を強くするために働くホルモンでもあります。そのため、長期的にホルモン療法でエストロゲンの分泌を抑えることは、骨密度は低下し骨粗しょう症となり、骨折や、関節痛などが起こりやすくなるとこともあります。
ホルモン療法を行っている方は、年に一度は骨密度測定を行うことが勧められています。定期的に医師が検査をオーダーしていると思いますが、ご自身からも「心配だから」と医師に声掛けをするようにしてください。
自分ができるケアとしては、ウォーキングなどの運動をする、きちんとUVケアを行った上で日光浴を兼ねて外に出る、カルシウムやビタミンDを多く含む食品やサプリメントを摂取するなどがあります。サプリメントをとる場合には、医師や薬剤師に相談し、服用しているお薬との相性を調べてから取り入れるようにすると、安心して摂取できると思います。
気持ちが落ち込む時や、骨に転移がある方は、動くことに抵抗を持つ方にお会いすることがあります。ですが、動かすことで骨のカルシウムの吸収を高めることになります。頑張りすぎない、無理しない程度に、体を動かすようにしてほしいと思います。自分だけでは、どの程度、どのような範囲で動かしていいかわからない場合にも、主治医や看護師、理学療法士に遠慮なく相談してほしいと思います。
主治医自身は、運動の細かなことを説明することは少ないかと思いますが、どの部分に転移があるかどうかを把握することで、荷重をかけてもよい部位が把握しやすくなります。その情報をもって、他の職種に相談すると、安心で安全な運動方法がわかるようになると思います。たくさんの職種や、人とつながって、自分の体にとってプラスになることを取り入れて下さい。
まとめ
乳がんのホルモン療法は、ホルモン受容体が陽性の場合に行う治療法です。ホットフラッシュなどの副作用があり、心身共に不安定になることもありますが、ホルモン量の変化とお薬に体がなじんでくると、症状は安定してきます。
つらい症状を我慢したり、逆に「私にはホルモン療法は合わない」と、自分ひとりで判断するのではなく、患者会で情報を共有したり、カウンセリングを受けて気持ちを吐き出すことで自分のつらさを開放することをお勧めします。
10年間近くお付き合いする可能性があるホルモン療法です。うまく、付き合っていく方法を周囲の人達と一緒に見つけてください。