こんにちは。いい病院ネットです。
がんと診断された後に気になることは、治療をどうするかになると思います。手術で取り切れる場合や、手術だけで取り切れない場合、そもそも手術が第一選択ではない場合もあります。がんの治療を選ぶ、特に“手術を考える時のポイント”について、今回はお話ししたいと思います。
「治療を選ぶときのポイントは?」
■ただ、「切除すれば良し」というわけではありません
がんにかかると、がんがある部分をすべて取ってほしい、逆にその部分だけをくりぬいてほしいと希望してくる患者さんやご家族の方もおられます。お気持ちとしては、すごく理解できるのですが、なかなかそうはいかないのが、がんの手術の考え方になります。
そもそも、手術では治らない血液がんは大きな腫瘍をとることはあっても、手術だけでは治療が完結することはなく、全身治療である抗がん剤治療が必須になります。また、早期で限局している腫瘍の場合には、手術でなくても放射治療でも同等の治療効果が得られる種類のがんもあります。治療を選ぶときは「悪いものを全部取る=がんがすべて取り切れる」ではないことを念頭に置いて考えることも、治療を選ぶポイントになると思います。
また、がん細胞は、肉眼的に見える部分だけに存在するわけではありません。そのため、画像などで見える以上の範囲を切除することが必要になります。
それは、がん細胞には、
○自分の細胞と同じ性質を持っている
○自律性に増殖する能力がある
○正常と異常の境が不明瞭
○大きさに関わらず、転移の可能性がある
などの特徴があるため、肉眼的に見える範囲を切除するだけでは、再発・転移の可能性が残ってしまうのです。そのため、腫瘍よりも大きく組織を切除することが必要ですし、がんが転移しやすいリンパ節までを切除する場合もあります。そのため、臓器を残すこと、一部だけでも残すことだけにこだわりすぎてしまうと、逆にがんを取り残すことにつながる可能性があるのです。
■手術方法は、利点・欠点がつきものです
腹腔鏡手術は、傷が小さく、術後の回復も速やかで、とても良い手術方法のひとつです。ですが、その分手術時間が長くなることや、炭酸ガスで腹部を膨らませることでお腹の動きが悪くなることや、心臓に負担がかかることもあります。
逆に前立腺がんなどで行われているロボット支援手術は、専門性が高く手術時間がかかり、炭酸ガスによる影響も出現します。ですが、開腹手術であれば700~1000ml程度の出血は避けられなかったものが、ロボット支援手術では100ml程度で抑えられ、勃起神経などが温存できる確率が高くなりました。これは、肉眼的に確認できない体の奥の臓器だからこそ、手術方法がより効果を発揮できたともいえると思います。
ですが、その手術方法を選択するときは、患者さんの希望通りにいかないこともあります。例えば、乳がんであれば、少しでも乳房を残したい、乳頭を残したいと希望されても、種腫瘍のできた場所や広がりによって、希望に添えない場合もあります。
そんな時は、失うことだけに目を向けず、手術を受けた後の可能性を見出すことも大切なポイントです。今は、乳房全摘を行った後に、再建術を健康保険で行うことも可能になりました。逆に、外見上の左右差が目立たない可能性もあるようです。
自分のがんの性質やできた場所・大きさによって、ご自身が望む方法での手術が望めなくても、失った臓器や組織を補う何かが発達してきます。“傷を小さくしたい”“自分の組織を残したい”、そのことだけを考えて手術方法を選ぶよりも、手術後のフォローがどれだけ受けられるのかに目を向けてみることも、治療を選ぶ際のポイントの一つになると思います。
■術前抗がん剤治療が増えています
がんは、大きさに関わらず、転移をする可能性があります。また、手術する前に、抗がん剤治療を行うことで腫瘍量を小さくし、手術での切除範囲を縮小することも積極的に行われるようになりました。これも、集学的治療の効果といえると思います。
ですが、一般的には、「抗がん剤=手術ができない人がする」イメージをお持ちの方もおられ、「それよりも早く取ってほしい」と思われる患者さんやご家族の方もおられます。また、抗がん剤治療を行うことで、安静にすることを優先し、手術前に体力が低下してしまう方もおられます。
そんな時の考え方として、「何を目標にしているのか」を、もう一度確認しておくことも、大切なポイントの一つではないかと思います。
術前化学療法は、
○転移を予防すること
○腫瘍量を小さくして、切除範囲を小さくすること
などのために行います。そのため、この時の一番の目標は、問題なく手術を乗り越えることにあると思います。抗がん剤治療の副作用は出現しますが、術前化学療法の際には、体力を維持することがとても大切です。
体がしんどい時は、体を休めることが必要ですが、大事を取って横になりがちになってしまうことは、体力が低下し、術後の合併症のリスクが高まります。栄養を取らないことも同様です。
術前抗がん剤がつらく寝てばかりいる、食事があまりとれない、気持ちが落ちこんでしまう、もしくは気持ちが焦ってしまうなど、心身のバランスがうまく取れず、手術に向かう前に気持ちが揺れてしまう時には、主治医に相談するとともに、がん相談支援センターなどを利用して、気持ちを聞いてもらうことも大切です。
“なんのために今を頑張っているのか”を、再認識することにもつながりますし、つらい症状を緩和できるヒントが手に入る可能性が広がります。
まとめ
がん治療は日進月歩で、手術方法や他の治療との組み合わせ方も、次々と変化しています。そのため、情報が追い付かず、今までの知識や聞きかじった情報で、自分の治療も当てはめようとすることもあるかと思います。
ですが、進歩しているのは、治療だけではなく、あなたの失う機能を補う技術や、心の問題への取り組み、そして外見を補うグッズなども進歩をしています。自分だけで判断できない時、何かに迷った時には、がん相談支援センターやがん看護相談外来、患者会などを利用して、自分の気持ちが治療に専念できる環境を整えていただきたいと思います。