がんのこと、もっと良く知ろう⑭「緩和ケアにおける放射線治療」

がんのこと、もっと良く知ろう⑭「緩和ケアにおける放射線治療」

こんにちは。いい病院ネットです。

前回は、一般的な放射線治療についてご説明しました。今日は、緩和的放射線治療と注意点についてご説明したいと思います。放射線治療ができる施設が限られるため、緩和ケアとして放射線治療を行うことが、一般の方にはあまり知られていません。ですが、緩和ケア医療では、適切な時期に放射線治療を行うことは、患者さんのADLの維持や生活の質を上げることになる場合も多いのです。今回は、緩和ケアにおける放射線治療とケアについて詳しくご説明します。

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「緩和ケアにおける放射線治療」

■骨転移と放射線治療

放射線治療は、手術と同じ局所療法ですが、手術と違い形状や外見の機能を維持できる強みがあります。これは、緩和ケアの領域でも生かすことができます。特に骨転移に対する放射線治療は

〇骨転移による痛みを軽減する
〇骨折を予防する
〇脊椎転移による麻痺を防ぐ

ことに効果があることが分かっています。

例えば、骨転移の痛みは、患者さんの生活の質を低下させるものです。また、骨転移が悪化し、骨折を起こすと痛みとADL(日常生活動作)の低下を認めます。また、脊椎転移により脊髄圧迫症状が進行した場合には、手足の麻痺が出現し、場合によってはベッド上の生活だけでなく体位交換などでも介助が必要になるかもしれません。

骨転移の場所や、患者さんの予後によっては、手術を行うことが適切な場合もあります。ですが、手術をすることが逆に患者さんの苦痛を強め、体力が低下する可能性がある高齢の方や予後が限られる患者さんの場合で、緩和的放射線治療が選択されることになります。

〇骨転移の疼痛緩和

骨転移の痛みが強い場合には、治療当初は医療用麻薬を適切なタイミングで使用し、治療中にできるだけ痛みを感じない状態で治療を行います。概ね2週間(10回)の治療を行う中で、徐々に痛みが楽になり治療前の痛み止めが必要でなっていきます。そして、治療後にも更に痛みが軽減するため、患者さんは痛みから解放されるだけでなく、医療用麻薬の量も減らすことが可能になります。

そのため、治療中から終了後に、痛みがどのように変化しているか、眠気が強くなっていないかを確認することが大切になります。ご家族の方も、知っておくと安心な観察項目です。

〇脊椎転移の麻痺予防

また、緩和的放射線治療で、患者さんのQOLに効果がある症状として、脊椎転移による脊髄圧迫による麻痺を予防することがあげられます。前立腺がんや腎がん、乳がんが脊椎に転移していた場合に、その転移に気が付かず手足のしびれなどが出現し、数日で麻痺してしまうことがあります。

その症状が出現して48(出来れば24時間)時間以内に、その病変に緊急照射を開始することで、麻痺が完全に固定化することを防ぐことができるといわれています。

上部の脊椎転移による脊推圧迫は、麻痺の範囲が広範囲に及び、四肢麻痺を起こすことさえあります。ですが、必ずしも脊椎転移は、「腰が重い」「なんとなく、手足に力が入らない」「膝がカクっとなった」程度の症状から始まり、短期間で神経圧迫症状がみられることもあり、患者さんは麻痺がおこってしまったことを受け入れることができず、精神的に立ち直ることができなくなってしまいます。

放射線治療を受けこと、そのことに不安を感じる患者さんやご家族の方の気持ちも理解できますが、脊椎転移があり放射線治療が受けられる可能性がある場合には、照射期間も短時間です。できれば、治療を受けて麻痺や骨折を予防することをお勧めします。

■脳転移と放射線治療

肺がんや乳がん、消化器がん、泌尿器科がんによる遠隔転移として、脳転移があります。緩和医療においても、脳転移を起こした患者さんの症状コントロールは、とても重要な問題の一つになります。

脳転移も患者さんのQOLを低下させます。脳転移が起こった場所によって、運動麻痺や感覚麻痺、生活の変化などの局所症状が出現してきますし、腫瘍が大きくなることによって、頭蓋内の圧が上がり、脳圧亢進症状や水頭症などの症状がおこり、そのまま放置することは命にかかわることにもなりかねません。

脳転移に対する治療は、サイバーナイフやガンマナイフなどもありますし、リニアックでの定位照射や、全体の脳に照射する全脳照射があり、治療の選択肢は多いです。

ですが、脳転移は、一つ治療をしても、他の脳の部分に出現してくる可能性も高く、完全にコントロールすることは難しい場合もあります。そのため、どの治療法が患者さんにとってよりADLを維持し、生活の質を維持できるのかを考えて治療を選択することも大切と言われています。

また、脳転移の治療を行うことで脳が浮腫み、治療を行うことが頭蓋内圧を更新させてしまうことがあります。放射線治療医は、そのことを予想して脳圧を下げるステロイドや点滴の予防投与を行うことが多くあります。

ですが、予想以上の脳実質の浮腫みが起き、脳脊髄液の流れを悪くしてしまうことがあります。その場合には、嘔気や嘔吐、頭痛、意識レベルの変化などが起こってきます。そのため、放射線治療を受けた場合に上記の症状が出現した場合には、病院に連絡し、対処してもらうことが大切です。これは、患者さんのそばにいて、普段の様子を見ているご家族の方のほうが、より早く発見できる症状ではないかと思います。

まとめ

緩和的治療は、患者さんの苦痛を軽減するためのものです。患者さんの生活の質を下げるものは、「痛み」と「自分で動くことができなくなる」ことではないかと思います。

放射線治療は、
〇ピンポイントに病変を絞り治療をすることが可能なこと
〇外来通院も可能なこと、
〇緩和治療は照射回数も少ないこと

などから、骨転移や脳転移から生ずる苦痛症状の改善に役立つ治療のひとつです。

放射線治療は、局所療法のため、広範囲の転移などでは適応にならないこともあります。ですが、もっと放射線治療の適応を知っていただきたいと思って今回はお話を進めてきました。

確かに緩和期の治療は、治療効果を実感したからと言って、その予後が延長するとは限らないこともあります。ですが、疼痛が軽減できた、骨折のリスクが減ったことで、患者さんが「普通に歩けた」「痛みが取れてよく眠れた」という言葉が聞けるほど、患者さんを支える者としては、嬉しいことはないのではないかと思います(私の体験からですが…)。

放射線治療が受けられる場所は限られていますが、もし、医師から緩和的照射を提示されたとしたら、怖がらずに受けてほしいと願っています。

ライター:村松まみ(がん看護専門看護師)

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