もっと知って欲しい!乳がんのこと⑩

もっと知って欲しい!乳がんのこと⑩

こんにちは。いい病院ネットです。

緩和ケアと聞くと、どんなイメージをお持ちですか?

緩和ケアはWHOの定義をもとに、「疾患の早期から」QOLを改善するために、アセスメントをもとに介入することが大切と言われています。ですが、実際の臨床でも、「緩和ケア」という言葉は、治療方法がなくなったという意味で使われがちです。そのため、緩和ケアをイメージする意味合いが、医療者と患者さんやご家族の中でも温度差がある気がします。

今回は、乳がん治療と緩和ケアについてご説明します。

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『治療と緩和ケア』

■緩和ケア=最後の治療とは違う

緩和ケアが必要とされる方は、WHOの定義では「生命を脅かす疾患に直面している患者とその家族」とされています。日本人の死亡原因第1位であるがんにかかることは、その疾患の進行度に限らず、生命を脅かす疾患の一つに入ると思われます。

そのため、がんと告知された時の心の動揺をサポートするために、緩和ケアが必要になります。特に乳がん患者さんは、女性らしさの一つの象徴である乳房にメスを入れることで、身体以上に心の苦痛を伴います。また、パートナーとの関係、妊娠・出産など、自分が考えていた未来が揺らぎ始め、不安に押しつぶされそうになります。

そんな時、治療が始まる前から心の緩和ケアを行うことは、治療への取り組み方や心構えにも良い意味で影響を与えます。ですが、「緩和ケア」という言葉を使うことは、治療する医師から「治療を受けないのか?」と誤解されがちな言葉でもあり、患者さんやご家族の方は言い出せなくなってしまう傾向があるようです。

ですが、心の痛みは、体の痛みとなって、様々な症状を表すことがあります。眠れない、食欲がでない、排便習慣が変わった、めまいや動悸がするなど、今まで感じなかった症状が出現してくることもあります。

がん告知を受け、治療が決まるまでの不安定な期間ほど、心理社会的問題といわれる不安や経済的問題について、相談室の利用や、がん治療に強いカウンセラーなどに相談して、しっかりと話をすることで、できる限り解決してほしいと思います。

■対象療法である緩和ケア

緩和ケアは、患者さんやご家族の苦痛を軽減し、生活の質を改善するためのアプローチです。その中には、脳転移や骨転移から生じる苦痛を軽減するための治療も含まれます。

がんによる症状、治療による症状、治療以外の様々な苦痛から起こる症状について、緩和ケアは対象になります。ですが、緩和ケアは、病気そのものを消す治療とは違うため、コントロールが主な目的になります。そのため、「治らない=緩和ケア」というイメージと結びつきやすくなってしまうのだと思います。

ですが、今はたくさんの治療法があり、臨床試験や先進医療を受けることができる時代です。今後は、遺伝子医療がもっと、がん治療に取り入れられると予想されます。そんな時、自分が受けたい治療が受けられない、受けたけれど効果が得られないなどの心の動揺も何度となく体験することにもなります。また、予想外の有蓋事象に戸惑うこともあると思います。そんな時、治療と併用して、緩和ケアを利用してもらうことも、一つの選択肢だと思います。

がん看護外来や、相談室、がん哲学外来などを利用することも、緩和ケアの一つの形だとも考えることができます。

■自分らしい人生を病とともに

生命を脅かす疾患の一つであるがん。女性にとって、乳がんは一番罹患率が高いがんの一つです。手術・抗がん剤・分子標的薬・放射線治療・ホルモン療法など、集学的治療を行うことで、治療のバリエーションもいろいろありますが、それでも手術ができない場合や、再発する可能性もあります。

病状の変化に心が揺らぎ、心が折れそうになるとき、「自分らしい生き方」について考えたくなった時、緩和ケアを活用してほしいと思います。

病気になることは、自分の存在価値が揺らぐことにもつながります。私も先天的に疾患があり、病気や障害を持って生きることの意味を考え続けています。

「なぜ、自分が」「どうして、悪いこともしていないのに」「私のせいで、医療費がかかる」など、様々な思いが心に沸き上がり、怒りや自己嫌悪、希望や諦めが心で葛藤することもあります。

ですが、今を生きる意味は必ずあり、病気になり外見上の変化が生じることや、病気になったことで周囲の見る目が変わったとしても、あなた自身の本質は、あなたが自分らしさを失わなければ、誰も傷つけることはできないと思います。

同時に、自分の未来が揺らぐ病気にかかったことで、これからの未来に対する準備をすることも考えて頂けたらと考えます。

例えば

〇自分がやっておきたいことは何か
〇自分が家族や社会に残しておきたいことは何か
〇自分は、どこで誰と、最期を迎えたいか

などを、家族や心許せる友人と話をしてほしいと思います。家族や友人に話すことがつらいという場合にも、緩和ケア外来やがん看護外来などを活用していただければと思います。

積極的治療を受けたい、それも一つの大切な選択です。また、治療を続けつつ、自分の時間を大切にしたい、それも一つの大切な選択です。その選択を行うまでのプロセルで、迷いや不安、苦痛を抱かせる症状を改善するために緩和ケアはあります。

まとめ

治療と緩和ケアは同時に受けることで、より治療が前向きに受けられると思います。緩和ケアという言葉に抵抗がある時でも、相談室や患者会、がん哲学外来など、患者さん自身の意思で心のケアを受けられる場所はいろいろあります。

今や、乳がん治療は10年ともいわれています。その長い年月を、自分だけで頑張ろうとせずに、できるだけ自分が居心地よいと感じる場所を増やしていただきたいと思います。

ライター:村松真実(がん看護専門看護師)

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