我が国の平均寿命は、医療の進歩により飛躍的に延長されています。
その一方では、合弁症を伴い全身状態の良好とはいえない高齢者が増えています。
そのため、治りにくいキズを持つ患者は年々増加傾向にあります。
このような患者の治療を専門的に行うのが形成外科です。
形成外科では、キズを早く治すことだけではなく機能や見かけも大切にしています。
形成外科は通常手術により治療を行いますが、全身状態がよくない患者では外科手術に耐えられない方も多くいます。
このような場合、依然は保存的な治療として毎日のガーゼ交換を行っていました。
そうなると多くの場合入院が必要となり、さらに治りにくいキズですので入院期間も長くなるなど様々な不利益を生じます。
したがってなるべく早く、安全に、きれいに治すことが重要なポイントになります。
近年、これまでの保存的治療法とは違った新しい治療法、「局所陰圧閉鎖療法」が開発されました。
この方法は、キズに掃除機のように吸引すること(陰圧)で、急性期のキズだけでなく難治性(治りにくい)のキズなどのようなあらゆるキズにも有効な治療法です。
この治療法の開発により、私たち形成外科医が行うキズの治療も大きく発展しました。
キズの種類と治療法についてはこちら(日本創傷外科学会のHPへ)
局所陰圧閉鎖療法の歴史は以外と古く様々な説がありますが、最も有名なのは1997年に米国のArgentaらが報告したものです。
彼らは創を密閉し陰圧を維持して治癒を促進するための傷に関する特許を出願し、その後医療機器・材料の企業であるKCI社が販売ライセンスを得た後事業化して局所陰圧閉鎖療法機器の発売を開始しました。
わが国でも、厳しい審査のうえ2010年4月より仕様が認可されるようになりました。
現在では、2社が発売している3種類6製品の医療機器の仕様が可能です。
原理を簡単に説明しますと、キズにスポンジ状のフォーム材を当て、これを透明なフィルム材で覆いキズ全体を完全に密閉腔にします。
この密閉腔にチューブを差し込んで吸引器で吸引することにより、スポンジを介して、キズ全体に陰圧をかけることができます。
この陰圧によってキズの治癒を促進させる治療法です。
その作用機序は、
これらの作用機序により、キズが治っていく過程を促進すると考えられます。
また、この治療では、スポンジなどの交換が週2回程度で十分であり、毎日必要であった従来の方法に比べて患者さんにかかる侵襲が少なくなりました。
さらに、治療に必要ないしや看護師などの労働力および大量の医療材料の削減も可能としました。
これらに加えて早く治癒が得られることによる入院期間の短縮を考慮すると、トータルコストを大幅に削減できる治療法です。
一方注意事項としては、
本法は、局所陰圧閉鎖療法に改良を加え、それが使用しにくいもしくは仕様できない患者さんにでも使用できる最も新しい治療法です。
現在はまだ製品化されていませんが、最近多くの形成外科医が今までの治療法で治らなかったキズが非常に早く治ることを知るところとなり、多くの施設で行われるようになりました。
以前は感染(化膿)を伴った治りにくいキズの治療法としては、毎日2~3回のキズの洗浄を行っていました。
しかし、感染(化膿)しているキズを1回洗浄しても数時間すればまた最近が増殖して元通りとなり、感染はおさまらずキズの治りも悪くなります。
そのため、感染をおさめるためには毎日の洗浄の回数を増やすしかありませんでした。
しかし、その治療には1回20~30分を要し、患者さんだけでなく医療従事者にとっても大変な負担でした。
一方、以前よりl整形外科では、とても治りの悪い難治性の骨髄円炎に対し1日24時間ずっと連続して洗浄を行う持続洗浄療法が行われていました。
すなわち24時間連続して洗浄することにより、細菌を洗い流しその増殖を阻止する治療法です。キズを治りにくくするだけでなく、全身状態をも悪化させる原因が感染(化膿)である点を考慮すると、持続的に洗浄することは極めて有効な方法です。
創内持続陰圧洗浄療法は前述した局所陰圧閉鎖療法と持続洗浄療法とを同時に行う新しい治療法なのです。そのため、感染(化膿)で局所陰圧閉鎖療法が行えなかったキズも安全に行うことができます。
さらにもう一つ特記すべき事項は、本法が局所陰圧洗浄療法で使用してはならない(禁忌)とされている大血管や臓器が露出しているキズにも使用できるということです。これには人工の皮膚(人工真皮)を併用します。
人工の皮膚といっても私たちの体を覆っている皮膚と同様のものでなく、コラーゲンのスポンジで構成されている人工物です。
一般的に骨や腱が露出しているキズでは表面からの血流が乏しく、皮膚移植を行ってもなかなか皮膚が生着しません。
しかしこの人工の皮膚は、まわりからの正常細胞の侵入によって骨や腱の上でも皮膚に似た組織となります。
この皮膚に似た組織ができることによって、最終的には骨や腱の露出しているキズを治すことができます。
しかしこの人工の皮膚も人工物であるため、感染(化膿)しているキズでは使用できません。しかし創内持続陰圧洗浄療法を併用することで、感染(化膿)しているキズでも、この人工の皮膚を使用することがでるようになりました。
大血管や腸管などの重要臓器が露出しているキズでも同様に、これらの露出した上に人工の皮膚を貼付することで本法を行うことができます。
すなわち本法は、感染したキズに対し直しながら人工皮膚を使用することを可能をしたのです。
人工の皮膚で大血管や重要な臓器を守りながら、その臓器の上に皮膚に似た組織を形成して、重量臓器を覆うことができるのです(シェーマ)。
例えば腸などの重要臓器が露出したキズでも、腸を損傷して穴があくようなことはなく、安全に治療ができ、以前ではとても治らないと思われたキズでも確実に治すことができるようになりました。