キズやキズあとを治療する専門医がいることをご存じでしょうか。
一般法人 日本創傷外科学会理事長の清川兼輔先生(久留米大学医学部 形成外科・顎顔面外科学教授)にお話しを聞きました。
創傷外科とは、「キズやキズあとを、手術を中心として医療技術によって治癒させる科」です。キズがどのくらいの期間をかけてどのような過程を経て治ってゆくのかを熟知していないと、キズ・キズあとの治療はできません。
これは、病気の原因をわかってない医師がその病気を治せないのと同じです。
そして、形成外科(特に専門医)こそがそのプロフェッショナルなのです。
日本創傷外科学会は、まさにそのプロの集団である日本形成外科学会が、キズ・キズあと治療の基礎研究の発展や技術の向上を目指して、約10年前に立ち上げたまだ新しい学会です。
国民の皆様方が、「キズがなかなか治らない、キズあとが残ったらどうしよう、キズあとややけどのあとが気になってしょうがない。」などの悩みから解放されるよう日々努力を重ねています。
キズの具体的な治療法についてはこちら(日本創傷外科学会のHPへ)
形成外科という名称は、まだまだ一般的に知られていません。
多くの国民が形成外科が何をする科なのかを知りません。
昔(私の幼少期)は、ケガをすると近くの外科の開業医を受診し、「このバカものが!」と先生にしこたま叱られながら縫われたものです。縫われたキズよりも殴られた頭の方が痛かった記憶があります。
しかし、近年昔ながらの外科の開業医は姿を消しつつあり、さらにキズあとがきれいになることも要求される時代になりました。
小学校や幼稚園でケガをすると、親の心配は尋常ではなく、時にモンスターペアレント化する実情も聞いています。したがって誰であってもそれがたとえ高齢者であっても、キズあとがめだたない方がいいにきまっています。
保険のきかない美容外科も、私共形成外科の一分野です。
正常の人にメスを入れてキズをつける美容外科においては、キズを治す技術がなくてはならないものであることは言うまでもありません。
ケガをしたら、その足で形成外科の専門医のいる病院を受診することをお勧めします。
世間一般では、ケガの治療を受けた後で「何針縫ったか」をキズのひどさの指針とします。
「え~10針も縫ったの!大変だったねー。」という具合です。
私ども形成外科医も縫合の後に患者さんから「何針縫ったんですか?」とよく聞かれます。
そんな時実際はよく覚えていませんが、「20~30針ぐらいかな。」と答えます。
患者さんは一瞬びっくりしますが、その後「僕らはキズあとができるだけ残らないように、細い糸を使ってふつうの外科の先生の4~5倍くらい小さく縫うからね。」と言うと、ほとんどの患者さんが納得して逆に喜んでくれます。
すなわち、何針という表現は昔の外科の先生方が約1cm間隔(例えば3cmの長さのキズであれば2~3針)で縫われていた頃のものが、今でも基準として残っているのです。
本当は、傷の長さが約◯cmと表現するのが正しいやり方だと思います(図を参照)
形成外科医がキズ・キズあとの治療のプロフェッショナルであることを全国民に知ってもらうことを目的として、日本創傷外科学会と日本形成外科学会が協力して「キズ・キズあと治療のキャンペーン」を現在行っている所です。
その具体的な方法として
形成外科を知っている人だけが得をする現状は、国民にとって、不公平です。
新しく発足した日本専門医療機構の基本診療科(患者さんが自ら最初に受診し、国民全員がその恩恵を受ける科)の一つである形成外科の存在と役割が全国民の知る所となり、すべての国民が平等にその恩恵を受けられるようにしてゆくことが、まさに今われわれに課せられた使命と考えています。
そして、私共形成外科医は全国民の期待にお答えできるよう、その研究の発展と技術の進歩そして人材の育成に向かった努力してゆかねばなりません。
是非、皆様方の口こみなどを含めたご協力を何卒よろしく願い申し上げます。
(文責:日本創傷外科学会 理事長
久留米大学医学部形成外科・顎顔面外科学講座
主任教授 清川兼輔)